サプライチェーンを構成するこうした人材と物的資源のネットワークを管理するには、現代の商取引の複雑さに対応するため、慎重な管理、リアルタイムデータ、さらには予測機能が必要です。
クラウドはここ数年、あらゆる業界で普及が進んでいます。広い意味では、クラウドコンピューティングとは、オンプレミスのコンピューティングインフラではなく、通常はリモートサーバーを使ってデータを移動・分析する仕組みです。
クラウド・サプライチェーン管理とは?
クラウド・サプライチェーン管理とは、オンプレミス機器ではなくクラウドコンピューティングのサービスを利用して、商品の移動を管理できるツール、インフラ、プロセスを指します。これにより、どこからでもデータを入力・参照でき、クラウドバックアップによる冗長性も確保できます。つまり、サプライチェーンデータを常に利用可能かつ最新の状態に保ち、紛失、破損、盗難に備えてバックアップできるということです。
ただし、サプライチェーンを管理する企業の意思決定者は、通常、クラウド製品を一気に全面導入することはありません。クラウドサービスの予算を増やす前に、投資対効果(ROI)の証拠を求めます。
サプライチェーンを支えるクラウドサービスの主な3つの構成
サプライチェーンの専門家が利用するクラウド構成は、通常、次の3種類のいずれかです。
- Software-as-a-service(SaaS)のツールは、サードパーティーのプロバイダーがホスティングして提供します。顧客はインフラを変更することなく利用できます。ソフトウェアの更新や保守もバックグラウンドで自動的に行われます。
- Infrastructure-as-a-service(IaaS)は、物流・サプライチェーン企業がクラウドベースのデータ管理・分析技術を導入するための、もう1つのビジネスモデルです。このインフラには、IoT(モノのインターネット)センサー、仮想マシン、ネットワーク技術、エネルギー管理インフラなどが含まれる場合があります。
- Platform-as-a-service(PasS)は、アプリ開発者がクラウドサービスをテストするための安定したクラウドベースの開発環境を必要とする場合に有用です。特に、既存の製品やAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)との相互互換性をテストする際に役立ちます。これは、パートナーがさまざまなベンダーの多種多様な製品を利用する可能性があるサプライチェーン管理で有効です。
企業がクラウド環境で運用する管理・エンタープライズプランニングのワークフローをどれだけ選択するかにかかわらず、こうした活動はプライベートクラウドでもパブリッククラウドでも実施できます。両者を組み合わせたものは、ハイブリッドクラウドモデルと呼ばれます。
サプライチェーンにおけるクラウドコンピューティングの7つのユースケース
サプライチェーンの専門家が、現在および将来のビジネスニーズを支えるためにクラウドコンピューティングを導入する理由は数多くあります。ここでは、最も一般的な7つのユースケースを紹介します。
1. 物流管理
機敏で効果的なサプライチェーンを維持するには、物流効率をしっかり把握する必要があります。かつては人が物流に関する個々の細かな作業を管理していましたが、現在ではクラウドコンピューティングとビッグデータ分析によって、サプライチェーン内の重要な物流業務の一部を効率化または自動化するさまざまな機会が生まれています。
クラウドデータとコンピューティングが提供する物流関連の管理機能の一部を紹介します。
- トラックなどの車両の移動と配車を管理する。
- 新規注文の順序付けと優先順位付けを行う。
- 遅延をなくすため、供給ルートや配送ルートを自動的に作成・更新する。
- コンプライアンス関連書類、請求書、領収書などを自動的に作成する。
クラウド技術を導入することで、各部門や関係者がデータを比較・統合し、より相乗効果の高いワークフローを構築して、より効果的に協働できるようになります。
2. 在庫管理の自動化
時間のかかる作業の一部を自動化する方法を見つければ、在庫管理ははるかに簡単になります。クラウドツールなら、それが可能です。例えば、在庫が特定の水準に達したら商品を自動的に再注文するインターフェースを設定できます。また、クラウド製品を接続センサーと連携させ、輸送中の荷物の正確な位置を確認することもできます。
在庫管理の自動化は、ホリデーシーズンなど需要が高まる時期に特に役立ちます。オンラインで買い物をしたり店舗を訪れたりした際に、商品が品切れになっていれば、顧客が不満を抱くのは当然です。既存の在庫管理プロセスに自動化を導入すれば、こうした事態を大幅に減らし、顧客のニーズにより迅速に対応できるようになります。
3. 将来の計画と予測
将来起こり得ることを予測することは、サプライチェーン管理における最も重要な機能の1つです。将来の売上を予測できれば、需要と供給を一致させるためにプロセスを変更したり、部門の規模を拡大・調整したりできます。
クラウドコンピューティングは、効果的なエンタープライズプランニングと物流予測に不可欠です。クラウドはさまざまなソースからデータを収集・整理し、現在と将来の状況をより包括的に把握できるようにします。ソースには次のようなものがあります。
- カスタマーサービスのチャネル。
- オンライン販売ポータル。
- 小売店舗。
- 卸売業者。
クラウドによってこれらのデータストリームが統合されると、物流の専門家は詳細な分析を行い、現在のトレンドに基づいて将来を正確に予測できます。
クラウドベースのデータ分析があるからこそ、Bayerのような大手製薬会社は、重要な医薬品や季節性の医薬品を年間を通じて全国で安定的に在庫として確保できます。適切なテクノロジーなら、数カ月分を提供する予測・予想データを活用し、季節的な需要急増や、地域ごとの予測不可能な需要パターンの変化にも先手を打てます。
4. 調達とソーシングの改善
サプライチェーンの混乱は、利益を107%超減少させる可能性があるため、こうした事態を積極的に防ぐ必要があります。サプライチェーン管理者は、まず調達・ソーシング戦略の多様化から始めるべきです。クラウドコンピューティングツールは、通信、契約、その他の情報を追跡することで、こうした取り組みを支援できます。
完成品や原材料の供給業者と、数百社、場合によっては数千社に及ぶ関係を維持しなければならない企業もあります。クラウドコンピューティングは、ソーシングと調達のプロセスをデジタル化する手段を提供します。期待できるメリットには、次のようなものがあります。
- パートナー間のより迅速なコミュニケーションを促進する。
- 唯一の信頼できる情報源を提供し、ミスや不要な購入をなくす。
- 現在の供給状況に基づき、ベンダーの切り替えを自動化できる。
- トレーサビリティーのコンプライアンスに必要な請求書、保管書類、データベースを自動的に作成する。
多くのクラウドツールは支出も追跡するため、サプライチェーンの専門家は、特定の原材料に支払っている価格が市場価格の範囲内かどうかを確認できます。また、調達プロセスを遅らせる事務上のボトルネックの多くを解消することも可能です。さらに、特定の製品が世界のどの地域から供給されているかを内訳で確認し、サプライヤーネットワークの拡大を促すこともできます。
ここで重要なのはアクセシビリティです。調和の取れたサプライチェーンエコシステムを実現する、あらゆる文書と継続的なデータ収集に、クラウドを介してアクセスできることです。サプライチェーンの調整と資金調達は複雑なものになり得ます。リバースファクタリングなど、キャッシュフローを改善する資金調達手段を可能にするために、クラウドが提供するスピード、効率、整理能力を必要とする企業もあるでしょう。
5. 保守と設備故障の管理
IaaS製品で比較的人気の高いタイプの1つに、保守作業の自動化があります。
配送トラック、組み立てライン、その他の重要な資産が故障すると、サプライチェーン全体に広範な問題が生じる可能性があります。クラウドプラットフォームは、こうした問題を最小限に抑えられます。
クラウドコンピューティングにより、サプライチェーン企業は物理インフラをクラウドベースの保守ダッシュボードに統合できます。これには、建物のシステム、コンベヤーやパレットトラックなどのマテリアルハンドリング機構、エネルギー・水関連のシステムが含まれます。
ハードウェアセンサーとソフトウェアインテリジェンスを利用するクラウド保守プラットフォームは、機械設備の漏れ、圧力低下、温度や振動の異常を常時監視し、メーカーの年間コストを数百万ドル削減します。
パイプ・タイヤ製造、化学業界、そしてサプライチェーン全体で、テクノロジーを導入して機械のROIを高めている事例は数多くあります。設備には費用がかかるため、これは重要なメリットです。さらに、故障または劣化した設備が原因で生じる製品欠陥をなくせるという利点もあります。
6. コラボレーション機会の拡大
クラウドコンピューティングが当初から普及した理由の1つは、地理的な境界を越えて協働し、より効率的に仕事を進められる点にあります。関連して、こうしたツールはリモートワークやハイブリッドワークの環境にも対応します。
サプライチェーンのリーダーを対象にした2022年の調査では、62%がコミュニケーション向けにリソースを配分していたほか、対面とリモートの関係を育むためのポリシーツールにもリソースを割り当てていました。どこにいてもサプライチェーンの統計情報、出荷場所、その他の詳細を即座に確認できれば、ワークフローがどのように改善するかは容易に想像できます。
7. 複数拠点の可視性を支援する
現代のサプライチェーンが拡大するにつれ、リーダーは拠点間のパフォーマンスを比較し、潜在的な問題を早期に特定する必要があります。クラウドツールはこの目的を実現し、権限を持つ関係者がリアルタイムでアクセスして、特定の倉庫やサプライヤーが重要業績評価指標を満たしているか確認できるようにします。
管理者はカメラ映像を取得し、特定の施設の従業員が規制当局の注意を引きかねない危険な行動を常習的に取っていないか判断することもできます。いつでも情報を取得できれば、リーダーが対処する前に問題が制御不能になる可能性を大幅に減らせます。
クラウド・サプライチェーン管理のメリット
クラウド・サプライチェーン管理ソリューションが広く導入されているのには理由があります。正確には、拡張性、持続可能性、コスト効率など、複数の理由があります。
拡張性は、サプライチェーンをクラウドで運用する大きなメリットです。クラウドの柔軟性により、プロバイダーと連携して必要に応じてリソースの使用量を増減でき、市場環境の変化に合わせて柔軟性を維持できます。
クラウドを利用してサプライチェーンを運用すれば、持続可能性の目標も支援できます。サプライチェーン幹部を対象にした2022年の調査では、回答者は持続可能性を、今後数年を形作る最大の課題の第3位に挙げました。さらに、56%がすでにハイブリッドクラウドソリューションを利用していると回答しました。クラウド分析により、持続可能な事業運営において成果を上げている領域と、取り組みが不十分な領域を把握できます。
また、クラウドコンピューティングに投資することで、コスト面での効率化も期待できます。通常、こうしたメリットが得られるのは、プロバイダーが多くの顧客ニーズにバックグラウンドで対応し、顧客がオンサイトでアップグレードする必要をなくすためです。
クラウド・サプライチェーン管理のデメリット
クラウドベースのサプライチェーンツールには、潜在的なデメリットもあります。多くのユーザーは、特に初めて利用する場合、学習曲線を経験します。プログラムに慣れるための十分な時間を確保すれば、課題を最小限に抑えられます。
サイバーセキュリティの低下も、クラウドツールに伴う可能性の1つです。ただし、適切に保護されていない場合に限ります。サイバー犯罪者は、最も大きな混乱を引き起こすために、攻撃を戦略的に計画することがよくあります。クラウドが攻撃の侵入口を提供する可能性もあります。企業のITチームは、ベストプラクティスの策定に役立つサイバーセキュリティフレームワークに従うべきです。適切に管理されたクラウドプラットフォームは、最終的には従来型のデータベースより安全です。
最後に、クラウドの顧客は、不可欠な機能をすべて備えたソリューションを見つけるのが、予想以上に難しいことに気付くかもしれません。企業がすでに他のテクノロジー製品に依存している場合は、特にその可能性が高く、サプライチェーンのリーダーは互換性のある選択肢を見つけなければなりません。必須機能のリストを作成すれば、組織は選択肢を絞り込めます。
結論:サプライチェーン全体でクラウドを導入する理由とは?
IaaSとPaaSが急速に成長しているのには理由があります。これらのテクノロジー群には、あらゆるサプライチェーン組織に大きな価値をもたらす可能性があるのです。関心を持つCEO、CTO、起業家は、クラウドコンピューティングが提供する自動化、リアルタイムインテリジェンス、拡張性、スピード、リソース効率の恩恵を受けられます。
クラウドが最大限に力を発揮すれば、人間は単調で反復的なプロセスを監視するのではなく、創造的で革新的な仕事に時間を使えるようになります。クラウドを利用すれば、サプライチェーン企業などはより良いものを構築し、可能な限り最高のサービスを提供できます。
サプライチェーン管理に適した最適なクラウドサービスプロバイダーとプラットフォームを知り、選ぶのに役立てましょう。