理想的な導入環境では、スケールメリットとシンプルさを享受するため、すべてのワークロードをクラウドに集約します。しかし、レイテンシー、セキュリティ、帯域幅、自律性への懸念から、人工知能(AI)モデルをエッジに導入することが求められます。
こうした導入はエッジAIやクラウドAIの形を取り、それぞれが独自のユースケース、メリット、課題をもたらします。これを踏まえると、自社に最適なモデルを選ぶには慎重な検討が必要です。
エッジAIとクラウドAIを補完的なモデルとして活用する
エッジAIとクラウドAIは、AI導入を支えるモデルがデータの質と量を損なうことなく継続的に改善されるよう、補完的な役割を果たします。クラウドAIは、より長期的なデータに対する深い洞察を提供することで、エッジAIによる即時の意思決定を補完します。
クラウドAIとエッジAIの最大の違いは、データを処理する場所です。クラウドAIはクラウド環境でデータを処理・保存するため、設計やアーキテクチャの柔軟性が高まります。しかし、デバイスが正しく機能して意思決定を行うにはインターネット接続が必要となり、レイテンシーやセキュリティ上の問題につながる可能性があります。
これに対して、エッジAIはネットワークの末端でデータを処理します。そのため、接続に依存せず、エッジで安全なリアルタイムの意思決定を行えます。
エッジAIの対象デバイスは、エッジに求められるメモリー、性能、サイズ、消費電力の要件を完全に満たせるほど高性能でも高速でもないことがよくあります。さらに、機械学習アルゴリズムとそのサイズの選択は、限られたサイズとメモリー容量を前提に行われます。
一方、クラウドのコンピューティング能力とストレージ能力により、クラウドAIはメモリー、サイズ、性能、電力の制約を受けず、幅広いデバイスに柔軟に対応できます。ただし、その代償としてコストが発生します。
インフラと相互運用性
企業はエッジAIとクラウドAIを組み合わせることで、インテリジェンスの共有を妨げ、企業内のさまざまな領域への価値提供を阻む、分断されたデータサイロを解消できます。AIおよびモノのインターネット(IoT)アプリケーションにエッジAIだけを使用すると、より広範なITインフラ間でのデータ共有が妨げられ、データから価値ある洞察を十分に引き出せなくなるリスクが生じます。
クラウドAIとエッジAIの相互運用性を確保するため、企業はクラウドプラットフォームをエッジアプリケーションと併用し、企業全体のアプリケーションとサービスをつなぐリンクを構築できます。
例えば、データをエッジで処理し、エッジAIがユーザーに迅速な洞察を提供する一方で、クラウドを使ってデータを処理し、企業内のさまざまな部門の意思決定に影響を与える長期的な洞察を提供できます。
さらに、エッジAIとクラウドAIの両方を組み合わせる必要があるユースケースでは、企業はエッジでの優先度の高いインテリジェンスと、時間的制約のないインテリジェンスを区別できます。そして、クラウドベースとエッジベースのAIアプリケーション双方の要求に対応できるよう、ITインフラを構築または適応させられます。
AIアプリケーションにおける学習アルゴリズムと推論アルゴリズム
エッジAIとクラウドAIの両方を効果的に利用するには、企業はユースケースに採用する機械学習アルゴリズムについて理解する必要があります。アプローチが学習または推論アルゴリズムのどちらに依存するのかを判断しなければなりません。
学習アルゴリズムを使用すると、機械学習アルゴリズムはデータフィードを学習ソースとして予測を行います。これらのアルゴリズムは、性能を向上させて誤差を減らすためのフィードバックループを常に持つことで、精度が高まります。
しかし、このアプローチは計算負荷が高くなる可能性があります。モデルは結果を出し続ける間、継続的な更新と修正を必要とするためです。これによりレイテンシーが生じることがあります。学習アプローチは最終的に、膨大な計算要件を満たして正確な結果を提供できるクラウドに適しています。
推論アルゴリズムのアプローチでは、新しいデータを受け取るデバイス上で、学習済みアルゴリズムを使って予測を行います。改良や学習ループを必要としないため、推論システムは容易にエッジへ配置できます。
エッジAIとクラウドAIを併用するメリット
パフォーマンスの向上
クラウドだけでは、AIアプリケーションにとって理想的とはいえません。エッジAIとクラウドAIが互いを補完すると、不完全な処理を補うことでパフォーマンスを向上させ、時に生じるレイテンシーを低減できます。
分散学習
エッジコンピューティングはクラウドの負荷軽減に役立ちます。そのため、エッジデバイスは集中型の学習アプローチを使うのではなく、協調してローカルで機械学習モデルを学習できます。
意思決定の改善
エッジAIによるリアルタイムの意思決定能力と、クラウドベースAIを支えるクラウドのコンピューティング能力およびストレージ能力を組み合わせることで、企業はより高速で、よりスマートかつ柔軟な意思決定を実現できます。
データとインテリジェンスへのシームレスなアクセス
クラウドAIとエッジAIのバランスを取ることで、企業は両方のアプローチから実行可能な洞察と意思決定を最大限に引き出せます。エッジモデルとクラウドモデルの間で共有されるデータは、機械学習モデルの学習方法や、企業全体に価値を提供するための強化方法に影響を与えます。
クラウドAIとエッジAIを組み合わせる際の課題
クラウドAIとエッジAIを連携させるには、両者の間でワークロードを意図的に分割・管理するようアプリケーションを設計する必要があります。
ユースケース
自動運転車
エッジAIとクラウドAIの技術を組み合わせることで、自動運転車の性能を向上させられます。エッジAIは高速かつ正確な意思決定能力を提供し、車両がリアルタイムで判断できるようにします。これにより、道路や環境にある要素の識別精度が高まり、車両の安全性、効率性、全体的な自律性が向上します。さらに、エッジAIによって自動運転車は接続性に問題がある状況でも、より高い信頼性を確保できます。
クラウドAIは自動運転車からデータを受け取り、機械学習やディープラーニングを通じて車両の性能などの指標を評価します。これにより、データから導き出された運転能力の向上を車載処理に反映できます。車両はクラウドのストレージ能力とコンピューティング能力も利用できます。
エッジ対応カメラ
エッジAIにより、エッジ対応カメラは、重要でないデータでネットワークに過度な負荷をかけることなく、センサーからの情報を処理できます。その後、対象物がエッジで検出された時点で、さらなる分析のためにデータをクラウドへ送信できます。
エッジAIとクラウドAIの未来
人工知能アプリケーションの未来では、人工知能をクラウドネイティブ、エッジネイティブ、またはハイブリッドのアプリケーションに分ける必要が生じるかもしれません。より多くのAIアプリケーションで高速なリアルタイム学習が求められるにつれ、AI導入の選択肢としてエッジAIの利用は拡大し続けるでしょう。
企業は、自ら組み立てなければならない断片的なテクノロジー部品ではなく、完全に統合されたソリューションをますます求めるようになります。これにより、テクノロジーパートナーは完全なソリューションを開発・事前構成して顧客に提供するようになるでしょう。
企業が処理と意思決定をクラウドとエッジの両方で行うべきだと認識し続けるにつれ、ハイブリッドなクラウド・エッジAIアーキテクチャが標準になるでしょう。