クラウドは極めて柔軟だ。それこそが中核となる技術的価値であり、アーキテクチャを支える基盤であり、この技術の発展を推進する中心的な真実でもある。しかし、その柔軟性にもかかわらず、サービスベースのIT提供というクラウドコンピューティングモデルには障壁が存在する。さまざまなプライベート、パブリック、ハイブリッドのデータセンター接続網にまたがる、簡単に統合できるマルチ・ポリクラウドのインスタンス群などというものは存在しない。
マルチ・ポリクラウドの基礎
接続と統合の隔たりがどこに存在するのかを見ていく前に(そして、目の前に広がる隔たりを乗り越える道筋も示せればと思う)、クラウドの世界がいかに多様であるかを確認しておこう。ご存じのように、プライベートクラウドとパブリッククラウドがあり、両方のリソースタイプにまたがるハイブリッドな導入形態も存在する。
さらにマルチクラウドもある。これは、企業が複数のクラウドサービスプロバイダー(CSP)を使ってワークロードをホスティングする導入シナリオだ。ここでの分散は一般に、CSPごとの価格、専門ツールの可用性、クラウドサービスの最適化(ストレージ容量の拡大、トランザクション処理能力の向上、処理性能や分析能力の強化など)に応じてワークロードを最適化することを目的としており、場合によってはブランドへの忠誠心が理由になることもある。
最後に、少なくとも今回の議論の範囲では、ポリクラウドもある。これは、アプリケーションやデータサービスを構成する個々のコンポーネントを、先ほど挙げたような最適化を考慮して、複数のクラウドに「分離して」配置する形態だ。
これらすべてが重要なのはなぜか。マルチクラウド(そしてポリクラウド)を推進する業界の勢いがあるからだ。調査会社IDCは、マルチクラウドが「2022年までにエンタープライズITで完全に普及する」とまで予測している。その時点で、企業の90%が複数のプライベートクラウドとパブリッククラウドに依存することになる。
世界が、終息に近づいていることを願うCOVID-19パンデミックの余波を受ける今、クラウドの導入は明らかに、そして確実にさらに拡大するだろう。クラウドが持つリモート接続のDNAによって、2020年以降も世界が機能し続けられたことを、あらためて説明する必要はない。
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クラウドの柔軟性は機能していない
それにもかかわらず、マルチクラウドは成果を上げていない。IDGは、別のレポートで、複数のプラットフォームを利用することによる相乗効果の実現に79%の組織が苦戦していると明らかにした。Flexeraの2021年版State of the Cloudレポートは、その実態を詳しく示している。ほぼ半数のケースで、ワークロードが異なるクラウド上に完全にサイロ化されているのだ。
「選択の自由や、比較検討して選べることは素晴らしいものです。しかし、利用しているプロバイダーのデジタルエコシステムが連携しなければ、インフラを構築、管理、保護するチームは、切り離されたツール、サイロ化したテクノロジー、手作業のプロセスを背負うことになります」と、デジタル運用管理会社PagerDutyのDevOpsアドボケート、Mandi Walls氏は話す。「インフラで何が起きているのかを把握する情報も、対応する有効な手段も不足するため、変更が遅れ、テクノロジー上の問題解決にも時間がかかります」
Walls氏は、この分断を見事に浮き彫りにしているだけでなく、現在マルチ・ポリクラウドの統合、相互運用性、そして私たちが求めるその先のオーケストレーション可能性を阻んでいる、統合の本質的な不足を克服する方法についても提案している。
PagerDutyのチームが選択肢の一つとして挙げる方法は、テクノロジースタックをシンプルに保つことだ。実際には、仮想マシン、ネットワークファブリック、ロードバランサーなどについて標準化を進めることを意味する。しかし、これではクラウドネイティブであることの伸縮自在なメリットが失われる。
しかし、ほかの選択肢もある。Walls氏は、もう一つの方法として、共通して重なるアーキテクチャだけを利用することを挙げるが、この道も簡単ではない。CNCFによると、Kubernetesだけを見ても、認定ディストリビューションは少なくとも67種類ある。
「あるいは、さまざまなツールやサービスを手なずけられるエンジニアリング組織を構築することもできます。これはシステムインテグレーターに近い存在になるということで、エンジニアリングチームがベスト・オブ・ブリードを中心にマルチクラウドを構築、維持します。米国の小売大手Targetが採用したのが、まさにこのアプローチです。同社では4,000人のエンジニアがGoogleとMicrosoftのマルチクラウドに取り組んでいます」とWalls氏は話す。
この種のアプローチ(あるいは、似たような構成でそれに類するアプローチ)の核心的な問題は、差別化を生み出すのではなく、コントロールプレーンを「単に」構築、維持するために、数千ドルの投資と膨大なエンジニアリング時間を必要とすることだ。
Walls氏とチームは、より取り入れやすい方法として、ツール、テクノロジー、サービス、ベンダーがあらかじめ統合され、チームと情報リソースをリアルタイムでつなぐモデルの利用を推奨している。このモデルなら、インフラを円滑かつ確実に管理でき、チーム同士の効果的なコミュニケーションと協業も可能になる。企業がマルチクラウドのメリットを実現し、この隔たりを乗り越える助けにさえなるかもしれない。
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統合を支える3つの礎
統合というテクノロジーの小宇宙は、数多くの経路、チャネル、種類、プラットフォーム、ツール、プロセスで構成されている。一部のITベンダーは自らを統合の専門家と位置づけている(Tibcoが好例だが、同社は現在、より広範なクラウドおよびデータプラットフォームの領域へと進出している)。マルチ・ポリクラウドの領域における統合について、私たちは3つの観点から考えることができる。
ワークフロー
自社で実践し、ワークフローをどう扱うべきかを理解するプロセスを経てきたPagerDutyの、この側面に関する見解は有益だろう。
Walls氏によると、ワークフローは、アプリケーションのライフサイクル管理やIT緊急事態への対応において、人、チーム、システムが従う手順を確立する。デジタルエコシステム全体で統合されたワークフローは、DevOpsチームが大規模に作業するために必要な一貫性をもたらす。また、チームがイベントに対応し、定められた計画に従ってIT部門と連携し、迅速かつ効率的に解決するのにも役立つ。
「ワークフローは、承認済みのツール、テクノロジー、プラットフォームのリストとしてコード化できます。例えば、コンテナでPythonを実行する方法を定めることも可能です。ワークフローは小さく始め、クラウドの変化に合わせて拡大し、ビジネスや顧客のニーズの変化に応じて進化させるべきです」とWalls氏は話す。
自動化
自動化は、ワークフローが走るレールだ。Walls氏は、ここで機能するプロセスについて、自動化によって、手作業の介入なしにワークフローやプロセスが起動されると説明する。手作業は非常に非効率になりがちで、イベントへの対応が遅れるリスクがある。
一斉実行、掃討、サイロの打破
「自動化は、チーム間、テクノロジー間にあるプロセスのサイロを一気に突き抜けます。ノードのプロビジョニングやアップデートの展開といった単調な作業を一掃する手段です。IT関連のインシデントを解決すべきとき、チームの適切なメンバーに適切なタイミングでアラートを届ける方法でもあります」とWalls氏は説明する。
可視性
統合は可視性の礎、つまりテクノロジー運用の内部を見渡す手段だと考えてよいだろう。統合が適切に行われれば、チームは行動に必要な情報を得られる。ワークフローや自動化と組み合わせることで、可視性はチームが必要に応じて他のチームとも効果的に協働することを可能にする。
エコシステム全体に可視性が行き渡れば、チームは生産性を支える、使いたいツールを柔軟に利用できる。決められたツールを使わざるを得ない状況から解放されるのだ。
Walls氏は、今回の分析全体を推し量るうえで、まさに適切な洞察を示していると言える。マルチクラウドは定着したかもしれないが、その特性がメリットへの障害になり得ると指摘して、この分析を裏付けている。
「デジタルエコシステム全体で、つまりツール、テクノロジー、プロバイダー間で統合されなければ、サイロは残り、ワークフローは分断され、自動化は孤立して動作します。統合は、ワークフローを組み合わせ、システムをオーケストレーションし、プロセスを自動化して、ITをスケールさせ、プラットフォームレベルでインフラを管理するためのトンネルになります」と同氏は話す。
これらの基礎をすべて身につけることができれば、将来に向けてマルチ・ポリクラウドの導入を拡大していくことにも、より自信を持てるようになるだろう。